碧音君がトン、とシャーペンの先でルーズリーフを叩く。指先まで綺麗だな。


「やりますーう。ちゃんと古典の文法覚えます―」


「そうしな」


ふ、と緩やかに口角をあげて、世界史の参考書に視線を落とす。そんなちょっとした瞬間にまで鼓動が早まる私はどうしようもない。


文法を覚えなきゃいけないっていうのに、半分しか頭のなかに入ってこないよ。


けどやらないわけにはいかないから頑張って集中していると。


「あ、あの!」


か細い声がして顔をあげると、出入り口にそわそわしながら立ってる女の子が。この子、多分4組の子だったような……?


「せ、刹那君、ちょっと話があるんだけど。いいかな?」


私と菜流、桐谷君はすぐに察しがついた。碧音君も何となくは分かっているだろう。少し困った顔。


「……今じゃなきゃダメ?」


「今で、お願いします!ちょっとだけでいいから」