この時は春も俺も笑っていられた、視力が悪くなっていくことにそれほど危機感を抱いていなかった。


でも、季節が移り変わるにつれて視力の低下も止まらなくなった。


病院に行って診てもらい治療を続けても、進行を抑えるだけで回復はしなくて。


「藍の顔も、よく見えなくなっちゃった」


「春」


「藍の表情、はっきりこの目で見たいんだけどな」


不安がる春を抱き締めて宥める。


勿論こんな状況じゃ春もバイトだって辞めざるを得なくなり、勉強にも支障が出てきてしまった。


気丈に振る舞っていた春もだんだん自分のマンションに引きこもるようになって、外へ出たがらない。


だけど、俺が誘えば家から出てきてくれた。


『藍が一緒なら怖くない』と。


よく見晴らしの良い丘の上に行って、俺はギターを弾きながら歌を歌った。