「だから結人、覚えておきな。俺らはただ家族ごっこしてるだけ」
「家族……ごっこ?」
上手くのみ込めていない様子で首を傾げる。
「そ。家族ごっこ、本物じゃないんだよ」
ケーキの袋を掴み勢いよくごみ箱に捨てた、さよならだ。階段を上り2階の自室へ行こうとしたら鞄がクイッと下に引っ張られる。
「兄ちゃん、ケーキは」
「いらないから」
「兄ちゃん、何でそんなこと言うのっ」
「事実だし」
結人は眉を八の字にして今にも泣きそう。
「に、兄ちゃん」
―――パシッ!
「離せ」
結人が鞄を離し俺自身に伸ばしてきた手を振り払った。後ろを見ずに階段を上りバタン、ドアを完全に閉めて鍵を掛けた。
多分これが、結人が俺に手を伸ばした最後だったと思う。


