「刹那君が俺の代わりを引き受けてくれなかったら、今日この場にいることは出来なかった。感謝してる」
「俺が代わりで良かったですね」
「はははっ、言うなあ。それじゃあ、安心して舞台袖で待ってられるよ」
口には出さなかったけど、白石先輩の気持ちは理解してるつもり。
だから今日まで練習は一切手を抜かず、多少無理してでも出来る限り調整してきた。
「自信持って、思いっきりやるよ!ほら、手出して」
雨宮先輩が片手をスッと前に伸ばすと、そこに1つ、また1つと手が重なっていく。先輩達のバンドはこのやり方で気合いを入れるのか。
「刹那君も。のせて」
「うん」
1番上に、自分の手も重ねた。暖かかった。
「全身でぶつかって、全力で歌って全部楽しもう!」
「「オーッ!!」」
ステージ上ではすでに司会の人が進行を始めていて、『では、登場してもらいましょう!軽音楽部の皆さんです!』と言ったところでステージにあがった。
ここから見た観客も、眩しい照明も、メンバーの顔も。
忘れない。


