腕を引いて、明日歌を俺の側に寄せる。こちら側に近づけば俺が狭くなると考えて寄ってこなかったんだろうけど。仕方ねえだろうが。


「ごめんなさい」


「お前が痩せれば良いんじゃねえ?」


「はぁぁあん?藍に言いつけちゃおうっかな」


「藍はお前の保護者じゃねぇよ」


しかし、俺も藍に逆らおうとは思わないためからかうのは止めておく。


駅で停車する度にどんどん人が増えていき、窮屈になる。さすがにキツ過ぎないか、そう不満を心中でごぼし明日歌に声をかける。


「おい、大丈夫か」


「押し潰されて煎餅になりそう」


肩を竦めて苦笑いしながら顔を上げる明日歌。


「……っ」


身長的にちょうど明日歌が俺を上目遣いで見上げる形に。……待て待て、俺今一瞬やばいって思わなかったか?こいつを、不本意だけど、めっちゃ不本意だけど可愛いって言葉が脳裏を過ったよな。


俺、疲れてんだわ今日。そういうことにしておこう。


もう一度、煎餅になりかけてる変態を見る。お前は人のペースを乱す天才かっての。……それを案外悪くないと思ってる自分もどうかしてる。





明日歌から視線を逸らし、窓の外の夕焼けを眺めることに専念したのだった。