星渚さんがカンカンカン、スティックを叩くと同時に観客も静かになった。
「――本当の僕を見て、気づいてよ、願うだけで口には出せない――」
空気が、震える。今までとは違う、しっとりとした入り方。
「――器用に生きられたら良いなと思って、実際そうはいかなくて――」
最初は抑え気味な音量で始まり、サビに近づくにつれてリズムも複雑になり勢いが増していく。
「――それでも、光という名の君が僕に与えてくれたんだ。君は僕の真実でいて――」
碧音君の言う君とは、誰のことなんだろう。まるで、闇の中にいた自分を助けてくれた、とでも言うような歌詞。
「――Take me out 、Help me get out――」
自分をここから連れ出して、抜け出すために手を貸して。
「――Will you remember?the silence gone――」
全身の細胞が奮え上がり、ゾクゾクする。少し掠れた色っぽい声。同じ16歳でもうちのクラスの男子には、こんな垢抜けて大人な歌声の人はいない。
「――僕の全ては君だから。また隣で笑ってよ――」
もし歌詞の中の僕が碧音君本人だとしたら、本当に相手の人が大切で好きなんだろうな。……碧音君にとっての大切、か。
それに、またっていうのが引っ掛かる。一度は一緒にいたけど、お互い離ればなれになったってこと?
歌いながら碧音君は時々、とても愛おしそうな瞳をするから。この曲を作ったのは結構前だと言っていたけれど、今でも碧音君は、きっと。
「――ずっとここで、君を待ってる――」
観客の楽しそうな声も、楽器の音も何故だか耳に入らなくて。碧音君は、今、誰のために歌っているんだろう。
自分の世界だけが、周りから置いてけぼりにされて止まった気がした。
心臓の早い鼓動が、静まれば良いのに。