木陰から俺のいる日向へ怠慢な動きで出てきて、瞳の奥を好戦的に光らせた。
「隣のステージの奴より、絶対人集めてやろうぜ!」
「集められるよ」
確固たる自信を隠さない台詞。でも碧音は左の手の平に人差し指で人の字を書き、飲み込む動作をする。
「それ、お前がやっても意味なくね?」
不安な心を落ち着かせるためのものを、緊張しない碧音がやっても無駄じゃねえか。けど、碧音は大きなライブ前は必ずこれをやってからステージに立つ。
「意味ある。やると絶対成功するっていうイメージしか沸いてこなくなるから」
「にしても、高校生にもなってまだ人の字飲めば大丈夫とかやる奴、お前くらいじゃね?」
今時いるか?やっても小学生か中学生のガキくらいなもんだろ。
「他のじゃダメ」
碧音は夏の眩しい空を見上げ、ふっと力の抜けた表情をした。
「……――、ああ」
そういえば、そうだったな。碧音にとっては特別なんだっけか。真っ黒な髪の隙間から覗くピアスを、太陽の光が輝かせる。


