「あのさ」
結人さんの声がして、何だろうと首を傾げる。
「……美味しかったよ、おにぎり。作ってくれたの、君でしょ」
おにぎり、って。ああ!夜食用に作った具だくさん焼きおにぎり。美味しかったよってことは。
「お兄さんと、藍と食べてくれたってことですか!?」
「たまたま小腹が空いてたから」
少し視線を逸らして肩を竦める。本当は藍さんの押しに負けて渋々食べてくれたのかもしれないけど、それでも嬉しい。
「食べてくれてありがとうございました!」
「こちらこそわざわざありがと」
じゃあね、と手を振って今度こそ友達のもとへ行ってしまった。そっかそっか、藍さんと食べてくれたんだ。それで少しでも2人でいれる時間があったなら。
自分がしたことは無駄じゃなかったかもって安心した。じんわり心の奥が暖かくなって、足取り軽く会場へ戻った。
「菜流ー!ごめん」
「ちょっと、遅い。もう列進んでるんだから」
ということは、入場が開始されていたんだ。結人さん達と話していたら、時間を確認するのを忘れていた。
「お茶買うだけでこんな時間かかる?」
「ごめんごめん、ちょっとね。はいお茶」
「ありがとう」
どうして遅れたのかは曖昧に誤魔化して、ミニペットボトルを手渡す。


