本当に人の話を聞かない人だ。
そんな彼女に慣れてしまっている自分がいることを悔しいと思いつつも、僕は答えた。
「得意じゃない」
「ちょっとだけ描いてみてよ」
「嫌だよ」
「大丈夫、どんな絵でも笑ったりしないって約束する」
「絶対いやだ、」
僕の力の入った言葉に彼女は首をかしげると、もう強情なんだからと言って、そのスケッチブックを諦めたように砂浜に置いた。
僕はほっとして、手を後ろにつくと空を眺める。
海よりも薄いブルーは、僕がどんな気持ちを抱えていても、どこの世界にも存在し続けるのだろう。
変わらずに、いつまでもずっと。
すると、いつの間にか立ち上がていた彼女が僕を上から見下ろして言った。
「あの海とキミに向けて歌います」
へらっと笑う姿はお茶らけているように見えるけれど、すぐにその表情は変わった。
すうっと息を吸う。そして、空気に乗せて歌いだす。
その顔は至極真剣で好き、であるものと向き合っている証拠だった。
ーーああ、あの時と同じだ。
耳元に流れこんでくる歌声。
一番初めに聞いた時と同じように柔らかく、温かい。
だけど、あの時とはまるで違う。


