「だけどそこにはキミの求めるようなものはないかもしれない。仕事だから。
時間になったら上がるし、困ってる時、悩んでいる時の相談相手になってくれたりはしないよ」
彼女の言葉がひんやりと冷えた空気に触れて、頭の中に溶け込んでくる。
僕と彼女は生きている環境がまるで違くて、彼女が自由に夢を追い求められるのも、その環境が違うからだと信じて疑わなかった。
だけど、そうじゃなかった。
「ね、話さないと分からないことって多いでしょ?
キミはずっと人のことを誤解して生きて来たのかもしれない。
知ろうとすれば、変わった世界が見えてくるかもしれないのに、どうせなんて心を閉ざしていたらもったいないよ」
彼女は環境が違う中、その場所に甘えてきたのではない。自らの意志で自ら進んで生きて来たのだ。
僕だけが、どうせ、という言葉を使って逃げて来た。
置かれた環境に不満を持ち、どうせ僕には出来ないと、足りないものを何かのせいにしては理由づけをしてきた。
「知りたくなかったことも知りたかったことも全部、閉ざさずに受け入れたら、この世界に優しさがたくさん落ちていることに気づくはず」
きらきらと照りつける夕日が僕達を赤く染めていく。
彼女がその長いまつげを揺らしてゆっくりと瞬きをした時、開いた瞳にはしっかりと僕が映っていた。


