「例えば?」
「例えば……」
僕は彼女の問に考えるようにして目線を上にやると、ポツリとつぶやいた。
「卵焼き」
思い出すかのように出た言葉は僕がずっと心の中で引っかかっていたものだった。
それを他者に押し付けるのは違うと分かっているのについ口に出してしまう。
「キミはさ、お母さんにいつもお弁当を作ってもらってるだろう?人が作る卵焼きは丸みがあってキレイな長方形にはならない」
「何がいいたいの?」
何を伝えたいのか、自分でも分からないと悟ったなら、そこでやめればいいものを僕は言葉を続ける。
「だからさ、僕の弁当に入る卵焼きは整い過ぎていて、それを見ていると、典型的に違うってこと、分かるだろ?」
僕の問いかけに、彼女はふと、悲しそうな表情を見せた。
「違うよ、そんなんじゃない……」
その横顔はどこか弱々しく、それでいて言葉は柔らかだった。
「私ね、お母さんいないの。小さい頃に事故で死んじゃったから」
小さな笑顔を浮かべて打ち明けられた言葉にひゅっと喉が詰まるばかりで、僕は声が出なかった。
「お弁当はね、家政婦さんが毎日作ってくれてるんだ。お父さんは全然かえって来ないから雇ってるの。私の栄養バランスを考えて、好きなものを聞いて食べやすく作ってくれる」


