頼むからもう放っておいてくれ。
吐き出すようにそれを言おうとした時、風が彼女の味方をするように強く吹き荒れた。
「わっ、」
一瞬の出来事だった。
強く目をつぶり、開いた時には彼女は横を向いていて息を大きくすって歌い出す。
木の葉が小さな風によって揺れ、周りの雑音が消えた。キレイなソプラノの声は風と交じりあってじわじわと、僕の心に入り込んでくる。
そこに温かさを秘めながら、柔らかな声で僕を侵蝕していく。息を吸うことすらも忘れてしまうくらいに。
ただ、キレイな歌だと表現するには圧倒的に言葉が足りない。表現出来ないそれをもどかしいと思ってしまう。彼女は一体、何者なんだろう。
僕は歌い終わって満足げな顔をする彼女をただ呆然と見ていた。
ようやく言葉が紡ぎだせるようになったのはしばらく経ってからだった。
「なん、の歌?」
この時の僕は目の前のヘンテコな彼女よりももっとおかしな質問をしていただろう。


