「だってよ、アプリの事教えろ、車椅子ぅ」

 アイスピックを抜き、後ろに放り投げたモヒカンと、僕らは苦痛に顔を歪める面屋を見つめる。
 しばらくすると裏の顔の面屋がニヒルな笑顔でこっちを見てくる。

「君達、僕に勝ったくらいで調子に乗り過ぎじゃないのか? 頭のいいやつなんて、どれだけいると思ってるんだ?」

 ケラケラと手を抑えて笑う笑顔を見て、不快感と不気味な印象が突きつけられていると、モヒカンが放り投げたアイスピックを拾うのを見て、慌てて僕はモヒカンに問う。

「おい、モヒカン何すんだよ」

「決まってるだろ。まだどっちが負けたか解ってないみたいだから、お利口になるまで刺すんだよ」

「もう無意味だしやめろ。面屋、クリア報酬ってのを話してくれよ」

 モヒカンは、アイスピックを振り上げた所で止め、いらない言葉が出たらすぐ振り下ろすと言わんばかりに面屋を追い詰める。

「解ったよ。実は予選があったのは東京の1地区だけだ。そんな全国にする規模は無理だ。思ったよりレベルが高かったから、運営は結論を急いでいる、そのために僕らは乗り越えて貰う為の試練て所だよ」


 髑髏の指輪をさすりながら、彩子は間を空けて、問い詰める。

「何故東京地区を選んだの? 運営の結論は何? あなたはアプリとどういう関係?」

「あるネットで繋がった人たちでアプリを立ち上げた。その1人が僕。結論と東京は結びついているからさ」

 最低限の事しか喋らないつもりか。全てが曖昧で答えになっていない。3つの答えについて1つを選んだケンジが真相に迫る。

「アプリの結論、つまり目標は何なんだよ」

「あんまり喋るなと言われてるんだ、これで勘弁してくれ。『パーフェクトスラッシャー、パーフェクトヒーラー』さ」

 単語を聞いて僕の右眉がピクリと反応して、心が大きく乱れる。モヒカンと彩子とケンジは当然何も知らないから面屋に質問を続ける。

「パーフェクトってのはなんだよ、完璧に壊す、癒す? か?」

 質問するモヒカンの持つアイスピックに物怖じする事もなく、面屋は裏の顔で答える。

「その通りさ、完全を求めてるんだよ。運営の目的はそこにある、完璧にとなると、その場しのぎでは駄目だ、人生単位で完璧にそのどちらかを完成させる」

「そんなの無理だろうが、ふざけんなよ車椅子ぅ。真面目に答えろ、完璧にスラッシャーなんて自殺まで追い込むくらいしかないじゃねぇか」

 面屋は裏から表の顔に戻すと、僕も知りたかった続きを話し始める。

「そうだね、パーフェクトスラッシャーなら自殺に追い込まないと無理かもしれない。逆のパーフェクトヒーラーはもっと無理かもね。運営の人間は自分らでは無理だから君らを試しているのさ、中途半端ならいらないから」


 そんなのやっぱり不可能に近い。出来たとしてもどうするんだ? 疑問が一本の線に繋がるなんて事はなく、益々不気味に思えるアプリ……。

「このまま君達はここに居てくれ。着替えとかはこちらで用意する。すぐ最後の四人が来る、プレイヤーではなくピープルとしてね。サイトでアプリを立ち上げた僕の他の四人」

「まだあるのか!? 次の四人倒したらどうなるんだ?」

「渡辺さん、それはそいつらに聞いてくれ。それとモヒカンさん、このアプリゲームではスラッシャーが基本だけど本当に強いのはヒーラーなんだよ。僕はパーフェクトスラッシャーするなら君しかいないと考えているからアドバイスしとくね」

 興奮気味に声を荒げた僕に面屋は最後の言葉を残して、運営スーツと共に外に消えていった。

 何がなんだか解らないたった数分の会話が混乱を招き、誰も口を開く事が出来ない。
 モヒカンが1番に動き、無言で二階に上がって行く。

 パーフェクトスラッシャー、パーフェクトヒーラー。何でそんな事を必要とするんだ、アプリを立ち上げたサイトのメンバーとは。

 俯いて考えていると、目の前に暖かいコーンポタージュが置かれる。見上げると真っ直ぐ心配そうに見つめる彩子だ。

「インスタントだけど、飲んで少し休もう? ケンジここに置いとくわよ」

「いらない」

2人の声がケンジに同時に向いた、今日1番の異常。

『え?』