あと少し。
あと少しでヘビスモ先生は東の廊下に消える。

そう思いながら、最後の最後まで緊張を解かずに進む。

すると、あと2、3歩のところでヘビスモ先生がバッと私たちの方を見た。

瞬間、ニンマリと近づいて来るヘビスモ先生、顔を引き攣りながら後ずさる私。

美紀はただ、私とヘビスモ先生の顔を交互に見てはため息をついている。

「どうして逃げるんだ。裕子?」

「ど、どうして近づけて来るんですか」

「それはお前が逃げるからだ」

「わ、私だってヘビスモ先生が近づけて来るからです」

「何回言ったら分かるんだ?俺の名前は高倉淳弥。ちゃんと"淳弥"と呼べ」

「い、嫌です」

もう何回このやり取りをやっただろうか。

ヘビスモ先生は初めから私のことを名前で呼んでいた。

最初は名前で呼ばないで下さい、と言ったのだが聞いて貰えず、しかも名前で言うようにと命令してくる。

しかし、ヘビスモ先生だって私のことを苗字では呼んでくれない。

だから私も名前で呼んであげないのだ。