夕暮れ時、雅臣はとある豪邸の門と対峙していた。

来るものに拒むような圧迫感を感じさせる
黒の鉄柵門、彼はその前に立っていた。

「田原からは色々聞いてはいたがここまですごいとは……大層なお嬢様なんでしょうね」

周りを見渡しても呼び鈴のようなものはなかった。
仕方なく鉄柵の門を押し開けその先の扉に向かおうとした、その時

「あっ、雅臣君?」

門を抜けて左側の小さな庭園に白い椅子に座っている少女がこちらに気づき声掛けてきた。

僕はこの声色を知っている。
そこに座っていたのは、月代刹奈
この豪邸にわざわざ来た目的人物だ。

「お久しぶりです、月代さん…結構元気そうですね」

最後に見た彼女と大差がないくらい健康そうに見えた。雅臣は何故彼女が休んでいるのか不思議に思った。

ふと、彼は彼女の膝に開かれているスケッチブックに視線を落とした。

「絵、を描いていたんですか?」


「うんっ、私夕日を描くのがとっても好きなの。でも私が描いた夕日は誰にも見せたことないんだよね」

彼女は照れくさそうにはにかみながら言った。

「それはもったいないですね、こんなに綺麗に描かれてるのに」

少し離れたところでも月代が描いた絵は一瞬で印象に残るほど鮮やかに描かれているのがわかる。それを見せないなんて雅臣には理解するのは難しかった。

「それをいうなら、雅臣君だってそうじゃん!あんなにすごい小説自慢できるのに」

それを聞いて雅臣は苦虫を噛み潰したような渋い顔をして言う。

「僕のは単なるお遊びみたいなものだよ。誰かに見せる価値もないし、そのつもりもないよ」

「そんなことはっ!」

月代は否定しようとするが、それを雅臣を遮って続ける。

「才能がないんだよ、君の描くと僕の書くは全くの別物なんだよ」

そう、全て才能で左右されるのだ。
どんなに好きでやっても
完成なんてするはずなんてないのだ。

結局は自己満足であった。


「雅臣君……なんで泣いてるの…?」

僕は自分の頬に伝う雫に触れた。

アレ?僕、なんで涙なんかを……。