「んーこんなもんかな。ほれ」

鷹嗣がお玉にすくった蕎麦つゆを小皿に少し注ぎ入れ、私に差し出してくる。
受け取ったそれに口をつけると、なんともいえない幸福感に頬がふにゃりと緩んだ。

「めっちゃうま……!」

「うし、じゃあ蕎麦茹でるか」


かにと野菜のだしが良く出ていて、味付けも絶妙。
これだけで全部飲み干せそうなくらいおいしいのに、ここに「な寿日」特製のお蕎麦が投入されるというのだからもう、控えめに言って最高すぎる。


鷹嗣は蕎麦作りの勉強こそしていないものの、さすが料理屋の息子だけあって、なかなか筋がいい。

……なんて上から目線でいうほど料理が得意じゃない私に比べ、何でもさくっとおいしく作れてしまうのだ、彼は。



付き合って3年目。
こんなふうに彼の部屋にお邪魔して一緒に過ごすことは多くなってきたけれど、まだ同棲にまでは至らず。

でも、軽い気持ちでだったとはいえ実家に連れて行ってくれたということは、その先のことも多少は考えてくれてたりするのかな、……なんて。


私は、なんとなくこの人と将来一緒になるんだろうなって気はしてる。


鷹嗣はどうだろう。
こういうことって、どちらが、どのタイミングで切り出すべきなんだろう。



大晦日の夜。
ふたりで鍋を囲んで、年越し蕎麦を食べて。
そうしてまた、一年が終わっていく。