買い物のお礼に、と彼女は僕を食事に誘い二人で近くの韓国風居酒屋に入った。地下にあるお店は彼女がよく来ているらしく、慣れたようにいくつかのつまみをオーダーした。ビールが運ばれてきて乾杯し、お互いに半分くらい一気に飲み干したあと僕は彼女にどうして僕を誘ったのか聞いてみた。
「ルールっていうか、こだわりっていうか。とにかく一人でデパートに入りたくないのよ。寂しいとか怖いとかそういう理由があるわけじゃなくてなんとなく、ね。一番近い感覚で言うと儀式に近いかな」
「儀式?」
 僕は思わず彼女の言うことを反復して聞き返した。
「そう、儀式なのよ。それこそ密林が生い茂るジャングルの中に隠された黄金の聖地に赴くときみたいに私は誰かと一緒じゃないと、その場所に入ってはいけない気分になるのよ。そして、私はその人の意見を聞いて買い物をしないといけないの」
 彼女は今までに何度も同じように知らない男に声をかけて何度も買い物をしているらしい。僕が買い物を楽しめたのも彼女が人を連れて買い物をすることの達人だったからに違いなかった。そして、不思議なことに今まで一度も誘いを断られたことがないのだそうだ。
「私にそれを見分ける才能があるとかじゃないのよ。多分、それが儀式だからなの」
 僕も彼女の意見に賛成した。