「涙でしょっぱい。」
「あたしが泣いてるのに、キスするのがいけないんでしょ~?」
あははっと笑いあうあたしたちの声を、6時の時計のチャイムが遮った。
「送るよ。」
昔から、6時のあたしの家の門限をきっちり守ってくれる。
だから、秀の部屋の時計は5分進んでる。
秀の家からあたしの家まで、大体5分だから。
「・・・帰りたくない。」
「はいはい、送るから。」
「今日は、泊まってく。」
「我儘言わないの。」
「我儘なんかじゃない。本気だもん。」
「それを我儘って言うの。」
「じゃあ我儘でいい。帰りたくない。」
ずっとずっと、会いたかった。
このまま帰るなんて、嫌だよ。
ふと、視界に入った秀の机。
見たことのないボールペン。
「・・・秀、そのボールペン、何?」
明らかに女の子用の柄。
「あ……アイツ……」
女の勘は鋭いって、本当だ。
そのボールペンは、多分、秀の家から出てきた、あのショートカットの女の子のもの。
「それ、ショートカットの女の子のでしょ。」
「え?」
「あたし、秀の家から出てくるの見た。」
「今、そんな話は良いでしょ。」
そういって、ため息をついた。
―何?そんな話?
あたしにとっては、すごく大事な話だよ。
「ね、秀――」
「帰れ。」
「・・・は?」
「今帰らなかったら、きっと心優は東京に戻らないでしょ。」
あれ?何だろう、これ。
秀は、ずっとあたしと同じ気持ちだと思ってたのに。

