メジャースプーンをあげよう


「あ。それミスター結構じゃない?」

 空のグラスを乗せたトレイを運んできた皆瀬結衣子が、斜めに結った髪の乱れを直しながら言う。
 グラスを結衣子さんから受け取った上坂くんは「あ! 絶対そうだ!」と頷いた。
 私はといえばさっぱりわからない。
 結衣子さんは心底かわいそうに、と言わんばかりにウンウン頷きながら神妙な顔をしている。

「いつきちゃんは初めてだったんだね。お疲れさま」
「皆瀬さんは洗礼あびたんすか?」
「とっくにね。上坂くんはないの?」
「おれは基本キッチンなんで」
「いーなぁ。あ、お客さんだ。いってくる」

 ふたりの会話に口を挟む暇もなく、結衣子さんはすばやくレジへと向かった。
 今表にはあと2人いるから少し話しても大丈夫だろう。