メジャースプーンをあげよう


「すみません上坂くん」
「はーい?」

 上坂くんは大学生のバイトだ。
 こんなビルでアルバイトできる大学生なんているんだと思ったら、どうやらお父さんが上階に入っているレストランのシェフらしい。
 学生バイトはセキュリティやら何やらの関係で、身元がちゃんとしている場合しか雇わないんだそうだ。

 前でエプロン紐を綺麗に結って、顔を上げる。 

「ポットが前回よりほんの少し冷めてたとのことです」
「ゲッマジで」
「目の前で言われたので」
「謝ってくれたんだよね? ごめん、ありがとね」
「いえ。仕事ですし」
「でもおっかしいなあ? いつもと同じようにやったはずなんだけど…」

 茶色い髪をがしがし掻きながら上坂くんは首をひねった。