「睦月さん、ここに来られたのは初めてじゃないんですか」
食前酒を味わいながら聞くと、睦月さんは答える。
「2度目ですね。……とは言っても1度目は仕事を兼ねていたので、プライベートで来たのは今夜が初めてです」
「そうなんですか…」
(なんだろ、この感じ)
デジャヴっていうんだっけ。
どっかで見たことのある景色を見ているわけじゃないけど、知ってる感覚。
睦月さんがこのお店に来たときから感じているこれを何て呼んだらいいんだろう。
飲み込めない骨が喉にひっかかってるみたいな。
「……あの、睦月さん」
「はい」
「お客様。失礼いたします」
それをどうにか伝えようとした時、静かに横に立った人影があった。
「……あっ」
その人を見て、睦月さんが大きく息を吸い込んだのがわかる。
つられて顔を向けると、目尻の皺が目立つ白い帽子とエプロン姿の―――シェフ?
(……誰?)
「都様。本日はお越しいただきましてありがとうございます。その節は大変お世話になりました」
帽子を外して深々と頭を下げた中年のシェフに、睦月さんは慌てたように立ち上がった。
(みやこ…って、あ、睦月さんか)
(苗字で呼ばれるのはあんまりって言われたから睦月さんって呼んでたけど、そういや都さ……)
(……あれ? 都……)
都ってどっかで聞いたことある。どこだっけ。
考えている間にも、睦月さんはシェフに対して「もう結構ですから」と重ねて言う。

