奥のテーブル席に案内され、ウェイターくんがひいてくれた椅子に腰を下ろした。
ごゆっくり、と微笑んでくれた彼を真正面から見て、なるほど伊達男だと妙に納得しつつ軽く息を吐く。
「申し訳ない、急なことで」
「え、いやすみません、恥ずかしいんですけどこんないいイタリアン来たの初めてで……」
「初めて…ですか」
「はい。だからなんかびっくりと緊張で挙動不審っていうかキャパがギリっていうか」
「キャパがギリ」
「……まじめに返さないでください…」
「申し訳ない」
私の言うことを頷きくり返しながら聞いてくれる睦月さんの生真面目さが、こんな良い場所なのにじわじわきて逆に笑えてきてしまった。
さっきのウェイターとの会話から察するに、たぶん特に気合を入れたわけじゃなくて連れてきてくれたんだ。
来て頂くように言われたとか何とか言っていたし。
「いつきさんはお好きな食べ物はありますか?」
「えーと」
言われてメニューに目を通す。
(……やばい。何割かイタリア語のまんまじゃんか)
(読めない)
「……睦月さんのおすすめってありますか?」
「ありますよ。ここのシェフのひとりは私がとても信頼してる方ですし」
「じゃあ睦月さんにお任せしたいです。初心者にはハードルが高くて」
「わかりました。クリーム系やオイル系などのお好みは」
「あ、クリーム系は少しだけ苦手で…すみません」
「結構ですよ。じゃあ」
睦月さんが軽く手を上げると、さっきのウェイターがすぐに来た。
メニューを指さして何やら言っている睦月さんの顔に、ウェイターが少し近づく。
どこか違う国の血が混じっていそうな綺麗な顔をしたウェイターと、黒髪の美しい睦月さんが並ぶとちょっとした目の保養だ。

