メジャースプーンをあげよう


「いつきさん」

 どうしようか顔をあげると、向こうから睦月さんがやってきた。
 今日も綺麗な細身のスーツに身を包んでいる。

(タイミングがいいのも睦月さんらしいっていうか……)
(ん?)

 近付いてくる睦月さんは、いつもと1か所だけ違った。

「睦月さん。お待たせしてしまってごめんなさい」
「いえ結構ですよ。私も今日は予定がずれこんでしまったので先程来たところです」

 たぶん、ではなく間違いなく気を使わせないための嘘とわかることを言いながら、睦月さんはへたな笑顔を見せてくれた。
 ただの愛想笑いとは違う、相手を不快にさせないようにっていう表情。
 こういう風に気を使ってくれる人を私はすごくいいと思う。

「えっとそれで、あの…今日は」

 おずおずと切り出すと、睦月さんはあっと小さく声をあげて頬を掻いた。

「申し訳ない、お誘いした時に要件をお伝えしてませんでしたね」
「要件。とは」
「一緒に食事をと思ったのですが」
「えっ」
「夕食はすでにとられましたか?」

 いいえと答えようとしたその時、お腹がグゥと鳴り響く。
 少しの間があいて、俯いた睦月さんが小さく小さく笑った。