「俺も負けませんよ」
「何がです?」
「はじめさんに、圭吾くんに。そうだな…あとは伏見にも」
「え? 伏見さんにも?」
「何かに向かっているという点では伏見もですから」
「あ、バーテンダー?」
「そう」
睦月さんは顔を上げた。
つられて同じ方を見ると、高いビルがそびえたっている。
「……やっぱ、大きいし高いビルですね…」
「もしこのビルをいずれ譲ると言われたら、はじめさんも戸惑うでしょう?」
「は!?」
「……都家は縦横の繋がりがそれだけ広いということですよ。しかも俺は長男だから」
(え、ちょっと待っ)
「継ぐつもりはありませんけどね。おかげで弟たちに放り投げた放蕩息子扱いです。……まさかここに転属になるとは何の因果なのか」
ビルを見つめる睦月さんの横顔。
ちょっと寂しそうで、でもどこかふりきっている複雑な顔。
私の目線に気づいて振り向くと、唇をきれいにあげて微笑んだ。
微笑むと笑うはほぼイコールのはずだ。
でも、睦月さんはいつも仕事で見せる完璧さとはほど遠い、消えちゃうんじゃないかってくらいの繊細さを伴っていて。
「……だから、負けませんよ……っ!?」
思わず抱きしめていた。
こんな風に弱音や決意を話してくれるだけで嬉しい。
すごく嬉しかった。
「……はじめ?」
私に抱きすくめられたのは睦月さんなのに、頭を撫でてささやいてくる声は心配そうだ。
ぎゅっと力強くもう1度抱きしめてから、離れて笑ってみせる。
「私も負けませんよ!」
じっと私を見つめた睦月さんは、プッと吹き出した。

