メジャースプーンをあげよう


「公園出るまでは一緒するねー」
「結構ですよ」
「出たよーまた生けっこ」
「上坂くん黙ろう」
「……? はじめさん?」
「気にしないでください、戻りましょう」

 右側に睦月さん、左側に上坂くん。
 結衣子さんがいたら絶対ネタにされる状態。
 公園の出口までくると、上坂くんは足を止めて私を見た。

「んじゃおれ、また大学戻るからー」
「……がんばってるんだね?」
「惚れそ?」
「どうでしょ」

 アハ、と上坂くんは笑う。
 上坂くんから見たら私のうしろにいる睦月さんをちらっと見遣って、肩に触られたと思ったら――

「……マジで、負けないからね」

 耳元でささやかれ、流れるように耳たぶにキスをされた。
 バッと離れて耳を抑える。
 そうだった、この子には前科があったんだった。

「何をしているんでしょうね?」

 背中から聞こえる睦月さんの声が氷点下だ。

「こっえ。じゃーいつきちゃん、また店でね!」
「え? あ、うん、また……」

 手を振って走っていく上坂くんに、同じような笑顔を返せなかった。
 うしろからの圧が。圧が怖い。

「……まったく、はじめさんは」

 静かにため息をおとされ、身体がこわばる。
 仕事やコーヒーの温度、恋愛の順序まで生真面目にこなそうとする睦月さんは、意外なまでにヤキモチを焼く人だ。

(怒るってことはないけど……)

 手に睦月さんの指が絡まってくる。

(怒らないけど……どっかのスイッチが入るから心臓もたないんだよ)

「ちょ、ちょっと待って」

 いつもは絶対に外では見せない顔が見える。
 指を絡めたままビルに向かおうとする睦月さんを焦って止めて、そばのベンチに促した。
 さっき睦月さんが言いかけた通り、まだ時間には余裕がある。