メジャースプーンをあげよう


 目を開けたら、間近に迫った睦月さんの目と目が合った。
 薄目を開けたまま促すようにもう1度唇が重ねられる。

(だからなんでこう、いちいちやらしい!)

 平静を装って応えているけど頭は爆発しそうだ。
 私の唇から離れた唇が、今度は目元に触れる。そして頬に。

「……くすぐったいです睦月さん」
「すみません。嬉しくて」
「ええ?」
「やっとキスできるから」

 言いながらまた目元。まぶた。おでこ。
 そして頬に戻って、唇に軽く触れる。

「なんですかそれ……」
「キスはちゃんと好きだと言ってからって決めてたんです」
「……ぶっ」
「笑う? そこで」
「だって。ホント睦月さんってマジメ」
「大事なことですから」

 ふたりで飲んで遅くなった日でもちゃんと帰してくれたのは、つまりそういうこと。
 コーヒーポットの温度に細かいこの人は、お付き合いでもきちんとした手順を踏まないとって思っていたらしい。
 今時生真面目すぎるかもしれないけど、こういうところが不思議なくらい可愛く思える。
 ようやく離れた唇を名残惜しく思いつつ、グラスに手を伸ばしてジンフィズを飲んだ。

「あー……美味しい」
「この間も思いましたが、いつきさんけっこう飲みますよね」
「そうかな?お酒大好きですから」
「……もう1回」
「え? だから、大好」

 睦月さんの口元が緩んでいる。

(あー、そういうこと)

「大好きですよ? 睦月さんのこともね」
「はっ?」
「言わせたかったんじゃないんですか」
「や! え、いや、そんなことは……あったのかも」

 いつもの真顔でサラッと流してくれると思ったのに、予想外に照れた様子に嬉しくなった。