メジャースプーンをあげよう


「余計な事をベラベラと。バーテン見習いがサボってるんじゃない」
「ごめんごめん。てかなんで自分で持ってきてるの」
「俺が持ってきたかっただけだ」
「ふたりの時間を邪魔されたくなくて?」
「なっ」
「言ったでしょ。好きな子にはもっとわかりやすい態度でいなきゃだめだよ?」
「伏見!」
「じゃあね、いつきちゃん」

 ウインクと投げキス。
 キザすぎるけど似合うこの美形は、楽しそうに手をヒラヒラさせて戻っていった。

「……お待たせしてすみません」

 スツールに腰を下ろしながら睦月さんは言う。

「伏見のやつ、何か余計なこと言いませんでしたか」
「……私にひとめ惚れしたって本当ですか」
「なっ」

 敬語に戻ってしまったことがちょっとつまらなくて、聞かれたくなかっただろうことを真っ先に聞いた。
 反応が伏見さんに対するものと同じなことが嬉しい。

「ねえ。本当ですか」

 さっきより座る位置を少し右にずらす。もっと睦月さんの傍に寄りたい。
 睦月さんは長いため息を吐いたあと、観念したみたいに呟いた。

「………本当です」
「初めて聞きました」
「言うわけないでしょう」
「嬉しいのに」
「………可愛らしい方だと思いました。厳密に言えば、その後話してくれたことが嬉しかったんです」
「何か言いましたっけ?」
「俺が細かすぎただけだと非礼を詫びたとき、いつきさんは『今一度のチェック確認の良い機会となりました』と逆に感謝してくれました」
「……それだけで?」
「俺にとってはそれだけのことじゃなかった」

 テーブルに置かれた手が重なる。
 睦月さんはじっと私を見た。
 窓の下の夜景が真っ黒な瞳に映ってキラキラしている。
 こんなに近くで睦月さんと見つめ合うのは初めてだ。
 素敵な夜景。美味しいお酒。
 見つめ合う恋人。

(これは絶好のキ―――)