メジャースプーンをあげよう


「知らなかったんですか」
「……すみませんちょっとその、疎くて」

(別世界の話すぎて興味なかったっていうか)

「なんだ……」

 ため息をついた睦月さんがほっとしたように呟いた。
 心から安堵しているのがわかって、でも理由がわからなくて訊ねる。

「睦月さん?」
「すみません、ちょっと……頭冷やしてきます。ついでに追加を」
「え? あ、はい」
「ご希望はありますか」
「えっとじゃあ、ジンフィズを」
「では行ってきますね」
「……いってらっしゃい」

(っていうのもちょっと変かな)

 迷った末の言葉を口にして手を振ると、睦月さんも唇の端をあげて応えた。
 そして背を向けて、たぶんお手洗いに向かう。

(なんだ、って言ってた)

 睦月さんがあんな風にほっとするってことは、私がなにか不安にさせてたのだろうか。
 しかも「都一族」関連で。

(特にないよなあ?)

「……謝った方がいいかなあ。でも理由もわかんないで謝るのも失礼かな」

 目の前には宝石みたいに輝く夜景が広がってるっていうのに、気分はちょっとへこむ。

「大変でしょ、睦月は」

 突然後ろから声をかけられた。
 振り返ると例の美形店員が立っている。

「え……っと、伏見さん」
「あれ? 僕名乗ってな…ってそっか、さっき睦月が呼んでたね」
「追加のものなら睦月さんが頼むと」
「ああ。いや違うの。睦月がいると怒られるから」
「……?」
「睦月がひとめ惚れしたってコをじっくり見たくて」
「ひとめっ?」

 思わず大きな声が出て、慌てて口を抑える。これじゃさっきの睦月さんだ。