メジャースプーンをあげよう


「このバーには彼のような店員が多いんです」
「っていうと、副業?」
「ええ。趣味という人もいますし、伏見のように本格的にこの世界に入ろうとしてる人もいる」
「そうなんですか……」
「店名の通り、好奇心のまま生きてみようという信条の人間が集まるらしいですよ。オーナー曰くね」
「店名?」

 睦月さんは綺麗なスクエア型のチョコレートを指に挟んだ。
 唇に運ぶと、ぱくんと含んで美味しそうに頷く。
 カクテルと一緒に頼んでいたらしい。

(1粒いくらなんだろ、このチョコ……)

 いつきさんもどうぞと綺麗なお皿を差し出されたけど、怖くて手がつけられない。
 首をかしげながらも睦月さんは続ける。

「Bar Angelo。アンジェロとはカクテル言葉で『好奇心』なんです」
「へえ!初めて知りました。オーナーとお知り合いで?」
「……ああ」

 睦月さんは頬を掻いた。
 ちょっと気まずそうに、視線を落として。

「従兄弟なんです」
「従兄弟…?というと、都一族の……」
「え」
「あ」

(あーー!)

 少し目を見開いた睦月さんを見て、瞬時にしまったと思った。
 都と呼ばれるのを好まない睦月さんにはできるだけ不快にならないよう、話してくれるまでこっちからは振らないつもりだったのに。 

「……まあ、都なんてそうそうかぶらない苗字ですしね」
「睦月さん?」
「やっぱり知っていましたか。名乗った時特別な反応を示さなかったので、つい話しそびれていました」
「いえあの、知らなかったんです。2週間くらい前カフェの先輩に聞いて初めて……」
「え?」
「え?」

 睦月さんは空になったグラスをテーブルの端に寄せ、今度はさっきと違った意味で目を見開く。