「……少しは気を使ってくれると有り難いんですけどね」
冗談に聞こえないのは睦月さんが真顔のせいだ。
申し訳ないと言いながらも、店員はどこか楽しそうに微笑む。
不快にならないのは彼の顔が整っているからってわけじゃなくて、品があるから。
「失礼。睦月のこんなところ、見たことなかったのでつい」
「ついじゃないでしょう。君は仕事中。私語は慎んでください」
「ハイハイ」
さっきはあまり聞こえなかったふたりの会話が、店員が寄ってきたことでよく聞こえた。
暗めの店内、そして席に案内された時は睦月さんと繋いでいた手にしか集中していなかったから全然気づかなかったけど、私へ微笑みを向けてきた店員はあまりに美形だ。
彫りが深いタイプの欧州系美形。
(イケメンとかいうレベルじゃない)
(なんだこの美形)
「お連れ様はモスコミュールですね」
その美形店員はにっこり笑ってグラスを差し出してくれる。
「伏見……無駄に笑顔をふりまくな」
「店員として当然ですよ? 睦月サマ。ではどうぞごゆっくり」
テーブルに2つのグラスを並べた美形店員は意味深に笑うと、胸の前に手を当てて礼をし、去っていった。
すべての動作が様になっていて、ただの店員には見えないくらいだ。
というか、睦月さんを呼びすてにする人を初めて見た。
「お友達ですか?」
「……前職の同期です」
「華やかで綺麗な方ですね」
(あんな銀行員が窓口にいたら殺到だろうな)
(ファンとかついちゃいそうだし)
「今いつきさんが考えたこと当てられる気がします」
「えっ」
「あの外見ですからね。本人が意図しない諍いも起きるんですよ」
「……大変だ。それで辞めてここに?」
「いえ。まだ、ですけど」
「……副業大丈夫なんです?」
「大丈夫ではないでしょうね」
何てことのない顔をして、睦月さんはグラスを口にする。

