「………ごめ」
「いいよ、いつきちゃんは謝らなくて。よけい情けなくなる」
「……え?」

(情けない?)

 電車が来たらしく、周囲に音が鳴り響く。
 ショールまできちんと巻き終えた私を見た上坂くんはまた笑った。
 さっきとは少し違う。なにが違うのかわからないけど、こういうのなんていうんだっけ。
 改めて上着を着込んだ上坂くんは、ボリボリと頭を掻きながら呟いた。

「……ちょっとね、頭カチわられた気分」
「それ、どういう」
「いつきちゃんをおれのにしたいって思ったの、たしかにあいつが出てきてからなんだよね」
「…………う、うん」
「あー今照れたでしょー。少しは男として意識してもらえた?」

(少しはも何も)

 さっきから心臓がいくつあっても足りない状態になっているのは誰のせいだと思っているのか。
 でも、同時に私も気付いていた。
 まじめな顔をして上坂くんは続ける。

「でね、いつきちゃん」
「うん」
「おれさ、お気に入りを取られたくなくてわがまま言ってるガキみたいじゃない?」

(……思ってた)

 言葉にするのはさすがに失礼すぎると思って、言えなかったこと。
 お店で上坂くんの話を聞いた時に思った。
 相手が睦月さんとわかるまでは楽しかっただけのことが、私を取られたくないと変わった。
 つまりそれは、本気で私を好きなわけじゃない。

「やっぱ思ってたんだね」

 答えない私の顔を見て、上坂くんは笑った。
 今日1番スッキリしたように見えた。

「……じゃあ」

(変なちょっかいかけてくるのやめてくれるってこと……)

 言いかけた私の唇に、あったかい指。
 上坂くんの指。

「でーも。さっきエレベーターでの顔が可愛すぎたからマジになってもいい?」

(………は!?)

「よくない!」

 咄嗟に答えた私にも、言うと思ったと上坂くんは笑った。