紫苑side


頭の中で一度だけ通った道を思い返す。


こっちだったよな。


薄暗い外灯がある曲がり角を曲がろうとしたら


ドンッ!


『きゃっ!』


いきなり人が出て来て俺とぶつかった。

声に聞き覚えがあってぶつかった相手を
見ていると怯えた表情で俺を見上げる。


『…し、おん……?』


俺だと分かって少しだけ表情が和らぎ、
差し出した手を取った。


【何かあったのか?】


『え、ううん…なんでもない……。』


信歩は嘘をつくのが下手だな。
微かに身体が震えてる。


【夜に女が一人でウロウロするな。
危ないから送ってく。】


『ありがと…。』


多分、いつもの信歩だったら断っていた。
それをしないのは怖い思いをしたからだろう。