「一年ぶりになりますね。お元気でしたか?」
 女の子の問いに相手は全く反応しない。
「あたし、あれからたくさん事件のことを考えました。あなたの行った事件の動機や内容を」
 女の子は無言を貫く相手に話を続ける。 刑務所の外からは蝉の鳴き声が聞こえてくる。
「あの事件は一年経った今現在でも動機が謎のままです。あなたが貫いた正義の心に、被害者のみんなが共感しその気持ちを守っている証拠に他ならないとあたしは思います。あたし自身も同じ気持ちですから」
 相手は目を閉じたまま動かない。女の子はため息をついて話題を少しずらす。
「そうそう、気にしてないかもしれませんが、真は相変わらず元気です。ま、堅物なとこも相変わらずですけどね」
 女の子は笑顔で話すが相手は全く笑わない。しばらく沈黙を守っていると、相手は目を開けてようやく口を開く。
「用件は?」
「用件ですか。用件という程のことはないんですけど、敢えて理由を言うのなら……、あなたへの挑戦、かな?」
 女の子はニヤっと笑って挑戦的な目で相手を見る。そんな女の子の表情を見て、相手もここにきて初めて頬がゆるむ。
「あたしの考え抜いた推理が、もし、ちゃんと当たってたら正直に負けを認めて下さいね」
 挑戦的な女の子の言葉に相手は無言のままうなずいた――――



――一年前、真は椅子に座り机に向かったまま現状を把握するのに思考を巡らす。こんな状況に陥って冷静になれという方が無理な注文と言えた。 スーツ姿の女性は真の部屋を探索するかのように本棚を眺めている。
(確かに僕はホラーものの映画は好きな方だしゲームもやる。しかし、今まで霊体験なんて経験したこともないし、本当のところそんな存在はエンターテインメントの産物でしかないと思っていた。最近何かの番組でやっていたが、霊視体験というのは電磁波が人間の脳に何かしらの影響を与え、幻視を見せられているのだという胡散臭い論も見た。しかし、今のこの状況はどう結論付ければいいんだ?)
 真は頭を抱えながら考え悩む。そんな真に気がついたのか女性が話しかけてくる。
「真君、さっきからずっと何か考えているみたいだけど、何か悩み事でもあるの?」
 女性の言葉に反応して真は振り向く。女性は真の顔を見るとニコっと笑う。
「悩み……、ありますよ。当然」
 真は呆れたように言う。
「よかったら、お姉さんが相談に乗るわよ?」
「相談に乗る? あなたが?」
「イエス」
「……言う前に、何に悩んでいるか分かりません?」
 女性は「さぁ?」と肩をすくめて見せ、真はため息をついて話しかける。
「分かりました。じゃあハッキリ言います」
「はい、どうぞ」
「今現在、幽霊のアナタが僕に取り憑いているこの状況に悩んでいるんですよ!」
 そう言って真は思いっきりはキレる。
「ん~、それは何ともならないわね」
 女性はまたしてもアメリカンチックなジェスチャーで肩をすくめておどける。
「何ともならないわね、で済む問題か、アホ……」
 真は諦めたようにガックリうなだれる。
「あら、アホとは失礼ね。こう見えても私は中卒よ!」
「全然自慢になってないし……」
 女性の返しに真は再び机に突っ伏す――――

――遡ること数時間前、真の住むマンションの近くで放火と思われる住宅火災が発生した。事件を野次馬した母親の話によると、この事件はただの放火ではなく、そこに住む一家が放火される前に何者かによって刺殺され、その上に放火されたと言う。
 しかもおかしなことに、一家とは別に身元不明の女性の遺体までも同時に発見されていた。その事件現場はちょうど真の通学路になっており、平凡な高校生の真にとってこういう機会は珍しく、野次馬の少なくなった深夜にでも覗きに行ってみようと決めていた。