その遊べる数時間の中にも決定的な出来事があった。トイレに行ってくると言ってまなみがショッピングモールのトイレに行き、戻ってきた時だった。
「お腹壊した?大丈夫?」
時間がかかっていたために初は心配していたが、私は黙っていた。決定的だ。決定的な過ちだ。まなみの右手の爪に赤茶けた色がところどころついている。そしてパーカーの下から垣間見える新鮮な血液の色。また、左手首を切ってしまったのかもしれない。疑いとショックと怒りの感情がごたまぜになった。ぐいぐいと腹からわき出る気持ち悪い感情を、抑えきれなかった。
「なに、それ。」
「え」
ロスの表情を見ることはできなかったが、「おい」と言葉になりきれなかった声が耳にかすった。
「やっぱり、まなみってリスカしてるの」
「あ、あの」
「遊んでることがいやなの?」
まなみが言葉を失っているのが分かった。ロスも絶句していると思う。私自身も何が何だか分からなくなっていた。ただ、そういう行為を目にするのがいやだったのかもしれない。
「…帰るよ」
やっと聞き取ったまなみの言葉はひどく冷たくなっていた。追うこともできなかった。これからプリクラ撮ろうとかそんな話をしていたのに、どうしてこんな事をしてしまうのか。まなみの姿が完全に見えなくなった時、ロスがやっと
「何やってんだよ」
「わかんない」
私まで涙の混じった声になっていた。ロスは、近くに設置されていたベンチに座ろうと私に促した。