「んじゃ、俺らも帰るか」
「そだね」
普段通りをロスは装っているのかもしれない。しかし、木野誠也もしれないが彼の態度から怒りの感情が垣間見えた。こういう姿を見るのはいつぶりなんだろうなぁ。ちくちくと恐怖を感じていた。ロスも私の顔をちらちら気にしつつ、手を振った。
「また、明日」
「うん、明日」
いつも通り、手を振って別れていく。少しだけ胸の中にちくちくとする痛みが残っていた。ああ、人間関係で気にしすぎる、悪い癖だ。ヒロだってロスだってこんなつもりじゃないはずなのに。

 ロスと私の家は反対方向だ。反対方向に背を向けて私たちは歩き出す。このちくちくとした連続した痛さを吐き出したい。コンビニに寄ろうにも逆方向だから家まで耐えるしかないのだが。しかし、ヒロに久々に会えたというのに変な雰囲気のまま終わってしまったことに罪悪感を覚えていた。
 だんだんと住宅がいびつに密集する場所に入った。人もまばらで少しだけ薄暗い。イヤホンを耳にかけながらうつむいて歩く。
 しばらく歩くと向かい側から足音が近づいてきた。慌てて携帯の音量をさげ、気持ち視線を上向かせる。50メートルくらい先だろうか。そこにいたのは短髪に茶髪の男子。だぼだぼのパーカーを着て、腰パンをしている。その携帯を見つめる二重の目。
「あれ、クラ…?」
思わず呟いてしまった。向こうも気がついたようで目をぐうっと細める。ちくちくした胸の痛みとともに心臓もどくどくと脈打っていた。