じわりとくる不穏な感覚。ぞくぞくと感覚が鋭くなり、呼吸の仕方を忘れそうになる。ちくちくとする胸の痛みを確認しながら、私は
「大丈夫だよ。ヒロ。私を気遣わなくても。ロスも好きにしたらいいし。5人にまた戻れれば私も本望だけどさ」
少しだけ口角をあげる努力をした。
「…まあ、俺も今クラや姫とはあまり会えてないし接点ももててないんだけど」
きまりが悪そうにヒロは頭を掻いた。ロスは黙って私を見ていた。それとなくしんみりした空気の中、携帯の連続したバイブレーションがそれを壊した。バイブレーションで知らせを受けているヒロが慌てて携帯を取り出す。
「もしもし?」
電話だったようだ。誰からだろうと考えつつ、自分の左腕の時計を見る。もう5時を過ぎていた。私たちの街を通る電車は1時間にいっぺんの割合でやってくる。5時半代の電車が最寄り駅に到着するまでに15分を切っていた。この時間にヒロは帰ってきてるんだろうなぁとか無駄なことを考える。
 人通りのすくないこの通りでは私たちの声はよく響いた。毎日歩いている道だが、ふっと空気が抜けるとそんな事実をぼんやりと感じてしまう。ロスは黙って携帯を弄っていた。1分ほどたち、ヒロの電話が終わった。
「ごめんごめん、家族から連絡来てさ」
申し訳なさそうに手を合わせた。恐らく帰宅の催促だろう。了解、とまた会おうと言い合い、ヒロと別れた。