あたしの前にいるのは翼くん。
「つ、翼…!!」
先輩の顔色が面白いぐらい見る見るうちに変わっていく。
翼くん…あたしは黙ってその大きな背中を見つめていた。
後ろからは鼻をすする音が聞こえてきたからきっと千鶴ちゃんが泣いているのだろうと予想できた。
そりゃあ、怖かったよね。
「俺はお前なんか好きにならねぇから」
そう一言いうと、先輩は何も言わずに急いで逃げていった。
すると、翼くんがこちら側を向いた。
急いできたのか額には汗がにじんでいる。
「つば…「大丈夫か…?!千鶴…!」
『翼くん、ごめんね。』
その言葉をあたしは口に出しかけて飲み込んだ。
だって、翼くんは目の前にいるあたしをスルーして
後ろで泣いている千鶴ちゃんの頭を優しく、
心底心配そうな表情で撫でていたから。
翼くんには今のあたしは見えていないよう。
まるで、あたしは空気のような存在だ。
あたしの視界はだんだんと涙で滲んでいく。



