「俺さ…好きなやついる…」
「えっ……」
確かに聞こえた翼くんの声。
でも、翼くんはあたしの顔なんて見ずにずっと夜景を見つめている。
『俺さ…好きなやついる…』
その言葉が頭の中でリピートされる。
分かってたのに……分かってたのに
息の仕方を忘れてしまうほど
胸がぎゅっと締め付けられて苦しい。
「そ、うなんだ…」
上手く言葉が繋げられない。
あたしから聞いたのにこんなんじゃダメじゃん。
「でも、叶わないんだ。
それでも俺はずっと好きでいる…」
「…うん」
それは千鶴ちゃんのことだということは考えなくてもわかった。
だって、翼くんの顔は今まで見たことないくらい優しくて千鶴ちゃんのことを考えてるのか愛おしそうな表情で夜景を見ているから。
翼くんの千鶴ちゃんに対する大きな気持ちも痛いほどわかった。



