「じゃあ母さん、行ってくる」

「えぇ、いってらっしゃい。気を付けてねレオル」

小さな民家に少年――レオルとその母。

レオルの片手は小さな鞄を持ち、腰には短刀が差してあった。



今は夜だが、空に雲一つない。おかげで辺りは月に照らされ見回しがきく。
しかしレオルは気が抜けない。この辺りは魔物が出るからだ。
…いや、この時間帯はどこでも出るだろう。
だから護身用の剣は必要だ。

数分歩いた所で目的地に着く。


ドーム型の小さな建物。

看板には薄れた字で『天体観測所』と書かれていた。
レオルの仕事はここでの毎日の天体観測。

カチャリ

観測所の鍵を開け中に入る。
中は薄暗いが、電気をつけては観測しにくい。いつもの位置まで行って望遠鏡を覗いた。

(おぉ…)

今日も綺麗な星を見、観測結果を黙々と紙に写す。月の結果を書くところで手が止まった。

(満月まで…あと、2日か…)


満月――それはレオルにとって重大な日であった。
何故なら―――


カンッカンッ


鉄でできている天体観測所の階段。そこを誰かが登る音がする。

別にここは、誰でも入る事ができる――が。滅多に人なんて来ない。しかも、階段を登る足音が早い。

(…誰だ?足音が、段々近づいてくる……)


そのとき。


ガチャッ


乱暴に扉が開かれた。



「…っ、はぁ…。……え?」



入ってきたのは息を切らした少女だった。
金髪、青目。そしてお姫様が着てるようなドレスを身にまとっていた。
この辺りで見かけない子だ。


「あのさ…大丈夫…?」


見るからに辛そうな少女に手をさしのべる。

ここに誰もいないと思っていたのか、少女の顔から驚きの色が消えない。


「…はい…っ、あの!」

差し伸べた手を勢いよく握り返し、しゃべり出す。

「な、何?」

彼女の背後からまた、階段を上る音がする。それも沢山の。

その足音が近づく前に彼女は早口で言った。



「助けてくださいっ…」



「…はぁ?」