「…ぎ?むぎ?」


上からひろの声がする。


「えっ?あっ、ごめん。」


自分の声がくぐもって聞こえる。


「むぎ、今自分がどーゆー状況か分かってないだろ?
離れた方がいいかも。」


「え?ひろ?」


そこでやっと私は、ひろに抱きついていたことに気づいた。


慌ててひろから離れる。


「あっ、ごめん!ひろ、ごめん。」


多分、バランスを崩した私を、ひろが支えてくれて、そのまま抱きついちゃったんだ。


「大丈夫だよ。ったく、むぎは危なっかしいから。」


そう言って笑ったひろは、私を電車のドアの近くの門に立たせて、私を庇うようにして立った。


でも、今度は、後ろ向き。


私から見えるのは、ひろの広い背中。

…あ、ダジャレじゃないよ(笑)?



「ひろ?これじゃ喋れない…。」


「今だけ我慢して。もうちょっとで降りる駅着くし、着いて降りたらまた喋れるからな。」


ひろはなだめるようにそう言った。


「分かった。じゃあ、降りたらいーっぱい喋ろうね。」

「うん。」



さっき聞こえた、明らかに早かった心臓の音。

……あれって、ひろの、心臓の音だよね。


ひろ、満員電車で緊張してたのかな?

もしかして、入学式とか?


降りたら聞いてみよ!



でも、私の心臓の音も早かったんだよね…?


入学式は緊張してワクワクしてるけど、
あの時は入学式のこととか、考えてなかったんだけどな…。

うーん、分かんない……。