と、その時。
電車が勢いよく曲がって、
皆一斉に私が立っているドアの方に倒れそうになってきたんだ。
「わっ」「っ、」
それまでバランスをしっかりとって真っ直ぐ立っていたひろは、
つり革にも何も捕まっていなかったから
ドアにもたれかかって立っていた私の方に倒れてきた。
ぶつかる!
そう思って反射的に目をつぶる。
「あ…れ?」
ぶつかってきた、衝撃は…なかった。今、どうなってるんだろう。
「…っぶね…。大丈夫か?むぎ。…むぎ?いつまで目つぶってんだ(笑)。」
あっ、そっか!今どうなってるのか分からないのは、目を瞑ってたからなんだね!
━━パチッ!
「えへへ、目瞑ってること忘れてた!って…あれ?さっきより、なんか近くない?」
なんだかさっきよりひろの顔が近いところにある気がした。
「目瞑ってること忘れてたってどんなんだよ。…わり、ちょっと前の体勢戻りにくい。もうちょっとこれで我慢してくれ。」
「全然いいよ?」
ふと視界の端にひろの腕が見える。
私はチラッと横を向いた。そして反対の方向にも向いた。
分かった!ひろが両手をドアについてるんだ!
だから、さっきより顔が近い気がしたんだ。
「…あっ、戻れそう。」
乗客さんはやっともとの体勢を取り戻したみたいで、ひろもまた自力で立ち始めた。
そうすると、ひろと私の顔の距離は、さっきより遠くなる。

