「ここは、過去屋と言います。ここに来る人は過去に未練が残っている人です。私はその未練を果たす手伝いをする人です。手伝いと言っても私は過去に戻る手伝いをするだけで未練を果たすのはお客様自分自身なんです。」
 俺はすごく興味深く聞いていた。
 多分というか俺の未練は昔好きだった人にある。
 話を聞いたら過去に戻れると言っていた。
 昔俺の好きだった人が俺を好きだったという噂をその頃聞いたことがある。
 過去に戻ったら今とは違う人生が遅れていたかもしれない。
「あっ、言うのを忘れていました。過去に戻るにはそれなりのお代がいります。」
「金かぁ……。」
 無料だったらやるつもりだった。
 けれど金がかかるなら今のままでいい。
「いいえ。お金ではありません。お代はもっと身近なものです。」
「えっ!命とかじゃないですよね。」
 俺は怖くなって聞いた。
「はい。命ではありません。ですが結果が悪くて自分で命を絶たれる人もいます。」
 ゾッとした。
 俺はそうなりたくないなと思ってちゃんと考えることにした。
「無理に戻らなくてもいいんですよ。今が幸せであればそれでいいんです。過去に戻って幸せになった人もいればそうでない人もいます。じっくり時間をかけて考えてください。決めるのはお客様自分自身なんですから。」
 その人はやっぱり顔を変えていなかった。
 たくさんの人を見てきたからだろうか。
 俺は迷いながらも必死に考えた。
 そして決断した。
「俺、過去へ戻ります。あの聞きたいんですけど戻りたい場所とかって行けるんですか?」
「はい。行けますよ。では本当にそれでいいんですね?」
 その人は俺が見てから初めて顔を変えた。
 心配してるようなでも、本当にいいのか強く聞いているようだった。
 俺はそれでも自分の気持ちは揺るがずに過去屋の人に改めて言った。
「はい。俺は過去へ戻ります。もう決めたので絶対に変えません。」
 背筋をピンと伸ばしてはっきりと言った。
「分かりました。もう後戻りはできませんよ。では少し待って下さい。」
 過去屋の人はそう言って手で魔方陣を書き出した。
 その魔方陣は怪しい紫の光をはなっていて自分が悪いことをするみたいでドキドキした。
「では、この中に立ってください。」
 俺は言われるがままに立った。
 違和感は全くなくて普通に床に立ってるみたいだった。
 すると過去屋の人は不思議な呪文を唱え始めた。
 5秒ぐらいで終わって過去屋の人は俺の方へ向いた。
「あなたの今の日常がなくなってしまいますよ。後悔しても遅いですからね。ではさようなら。幸いを祈ります。」
 過去屋の人は唇に人差し指を当てて不適な笑みを浮かべた。
 そしてその手を魔方陣に向けた。
 最後に顔だけ俺の方を向いて口パクで「気をつけて下さいね。」と言った気がした。