ボーッと原稿を見つめていたら、外からダーンと物音がした。
何事だと私は椅子から立ち上がり外に出た。
「あちゃ、やってしまった」
「大丈夫ですか?」
その人は、男性であった。
「はぁ、はい」
さっきの音は、路地に自電車を止めようとしたら、手を離してしまって自電車が横たわってしまったようだ。
怪我をしていない様子からそのように思われる。
ダボダボなスーツ姿で暑いのか裾を肘下までに捲り上げていた。
眉間なシワや口に髭がモシャモシャとはえていた。
この人、もしかして出版社の方?
いや、普通のお客様が間違って来たということもあり得る。
私は身体を身構えた。
やはり、その人は近くでみても出版社の方には見えない。

