私は松岡さんが言ったことを黙って聞いていた。
彼に言い返すことが出来なかったからだ。
確かに言っていることは、正しいかもしれない。
しかし、彼はこの古本屋で生活出来ているのかと他人であるが心配になる。
ましてや、従業員の夢を叶えるためにお客様を呼んで本を買ってもらい、お金は入ってくる。
コバさんやくるみさん、私の分のバイト費までやったら、無くなるのでないかと思えた。
「陽琉? どうした? 大丈夫か」
「あ、はい。大丈夫です」
私がそう言いかけた時、ガラっとドアが開く音が聞こえた。
「今お取り込み中なんですが、何か……」
松岡さんは、遠慮がちに言った。
「陽和さん、昨日はどうも」
見知らぬ太めの男は、礼をしてアナウンサ―みたいに発音がはっきりしていた。

