辛さが伝わらない。
「……」
「そういうことだから。俺があなたに教えることは何もない。あの松岡さんだから期待したんだけどね。俺は帰らせてもらうよ」
田中さんは立ち上がろうとしたので、私は彼が立ち上がる前にすかさず聞いた。
「では、私の小説はなかったことになりますか? 私の書いた原稿用紙だけは持っていってもらいますか」
私の必死な表情が彼に伝わったのだろう。
「……分かりました。原稿用紙だけは持っていきます。では」
「……また機会がありましたら、書いてきますから。その時はよろしくお願いします!」
田中さんは、苦笑いで私に微笑んだ。
そして、彼はれんかちゃんに声をかけた。
「れんか、行くよ」
「もういいの?」
「ああ、終わったから」
れんかちゃんは、私の目を逸らさずに見てきた。

