私がそう言うと、なるほどという顔をしてくるみさんがいる居間を直視していた。
「ゴホンゴホン。え―と、戻りますけど」
咳払いをしている彼はくるみさんの容姿にうつつを抜かして正気を失っていた。
だが自力で現実に戻ってきた彼は、原稿用紙に目を通して私に言った。
「はっきり言いますけど、これではダメです。松岡さんの見込み違いだったのかもしれません」
「な、何でですか?」
「さっきも言ったけど、バス運転手の心情は伝わってくる。でも、もっと辛いっていう気持ちがほしいんだよ。辛いのは分かるけど、何が辛いのか具体的な感情が足りないんだよ」
あー、やっぱり。私が書くといつもこうだ。

