「…なあ」
気がつくと頭の上から低い声が降ってきた。
振り向くと、そこには長身の青年が立っていた。制服も通学鞄も真新しかったので、恐らく一年生だろう。
何か私に用?
「…なんですか?」
とりあえず問うと、青年はこう言ったのだ。
「君、何組?」
…は?いきなり何、この人。
「1年6組ですけど…」
なにか悪いことしちゃったかな、私。とにかく、兄さん以外の男子に話しかけられるのは初めてだ。生まれてから。
彩乃がそう言うと、その青年はホッとしたように笑った。
「よかったー!俺も6組。俺、教室の場所わかんなくて。連れてってくんない?」
え。私もわかんないんだけど。
しかし、目を輝かせながらそう言った青年は、まるで…
「犬みたい」
気づいたらそう口にしていた。

はっ!!
初対面の人に向かって私、なんてことを!