彩乃は小さくため息をついた。
「うん…わかってるよ、そんなこと。兄さんは何も悪くない」
彩乃は俯きながらつぶやいた。

「あぁ、だから…」
兄さんがほっとしたように続きを言おうとするが、彩乃がそれを遮った。

「でもね？兄さんみたいな、私と正反対の人には分からないこともあると思うの」

「え…それは……」

「兄さんは、全部持ってる。容姿も、友達も、私が持っていない物を全部…別に、だからと言って兄さんに嫉妬するとか言う訳じゃないけど」

「彩…」

彩乃は、兄さんが何か言う前に全てを告げた。

「だからね、兄さんが思っているよりずっと、私は悩んでるの。今までも、辛かった。私は…兄さんが思っているより…ずっと…ずっと、苦しいんだよ！」

「彩乃！」

そこまで言い切ると、彩乃は朝食もそこそこに立ち上がり、最低限の準備をして家を飛び出した。