ーー今俺は感じている。


後ろからの冷たい目線を。


いち早くこの視線から逃れたい。




俺は歩く1歩の幅を広げ、スピードを上げた。


俺の前にいた、あの女の肩を掴み呼び止める。




「ーーおいっ!!」


「ーーはい?………っひ!!!?く、く、黒崎くん!!!?」



女はビックリしたようで、肩を震わせてこちらを振り返ると青ざめた顔になる。

怯えている顔。


…よく見る顔。



「…なになに??何が起こったの??」


コソコソと周りから声が聞こえる。
噂好きの女の声だ。


「また黒崎くん?夏休み明け早々にカツアゲ!?…しかも女子に!!?」


ーーしてねーよ。



「女にも容赦ないってホントだったのね…。」


ーーホントじゃねーよ。


イライラが立ち込める中、目の前で怯えている女の顔が目に入る。


そうだ。説明して、ちゃんと、話して、誤解を解こう。




『別に俺は、カツアゲしようと思ったんじゃなくて、ただ、落し物を拾っただけで ・ ・ ・ 』


よし、完璧だ!!



俺は左手をに強く握りしめて勇気を振り絞る。







ーージロリ



「ーー何見てんだよ。」

何言ってんだよ。


「見んじゃねーよ。」

ちゃんと台詞、頭で考えてたじゃないかよ!


怯えている顔2つ、出来上がってしまったようだ。

「ーーひっ!…こわ。……ちょ、もう行こうよ。」


「……あ。」




内心涙をする俺。

またやってしまった…。



「………っあ、あの!!」

先ほどの女。

やべ、忘れてたわ。



「私に何か御用でも……。」


ビクビクと指の先まで震えている。

そんなに俺って怖いかなぁ~。


「…あ、いやすまん。こ、これ、落としたぞ。」



「ーーっひ!」


……ん、悲鳴?



女は俺の手からハンカチを素早く(奪い)取ると「ありがとうございます。」と言って光の速さのごときスピードで俺の目の前を去った。



「………こわー。黒崎くん。何してたかわかんなかったけど。」


「さっき、睨まれてた女子達がカツアゲって言ってなかった?」


「こんな朝っぱらから!?しかも2学期初日に!?」



「やっぱり、黒崎くんって不良だったのね………。」






…やっぱり、今日もダメだった。

俺は、深い深いため息をつく。