「小鳥ちゃん、本当にごめん。ごめんなさい」

しつこい! 5101号室を掃除しながら小鳥は顔をしかめる。

「だからね、あれは彼女がコーヒーを僕にぶちまけて。で、染み抜きしますって、ホテルの子だと思ったんだ……」

「ホテルの子が私服を着ていないでしょう! よく見ればわかることです」

「僕、女性は小鳥ちゃん以外、興味ないから。見ていないし。あの時もコーヒー落として、着替えて、小鳥ちゃんのところへ早く行くことしか考えていなかったかったし」

シレッと宣う光一郎を、小鳥は訝し気に見る。

「とにかく、デートに遅れてごめんなさい。誤解しないでね」

必死に謝る光一郎にうんざりしながら小鳥は言う。

「でも、何か下心があったから、部屋に入れたのでしょう? 私という前例もあるし」

小鳥は光一郎との出会いを思い出していた。
あの時もバスタオル一枚だった。

「神に誓って、下心などなかった。小鳥の時とは違うよ。だって、あの時、お掃除お姉さんが小鳥だと知っていて、ワザとあんなことしたんだから」

フーンと疑いの眼差しを向けるが、コホンと咳払いし淡々と言う。

「下心云々は別にして、彼女との関係は疑っていません」
「信じてくれてありがとう。やっぱり小鳥も僕を愛しているんだね」

満面の笑みを浮かべる光一郎に小鳥は呆れ眼を向ける。

「彼女、バスローブの下にブラウスを着ていました。それに足元はピンヒール。あれは慌ててローブを羽織っただけということです。誤解も何も、お笑い? そんな風に見ていましたから」

ヒューッと口笛を吹き、光一郎は「ブラボー」と手を叩く。

「相変わらず冷静な眼。鋭いね。でも、ちょっとぐらいジェラシーみたいなの抱いてくれてもいいのに」

ブチブチ文句を垂れる光一郎の目が、溜息と共に天井を仰ぐ。

何故、逆切れ?

「あのですね、デートをすっぽかされたのは私ですが」

小鳥は如何ともしがたい思いに駆られる。

「あっ、うん、そうだった。一回目のデートはともかく……二回目のデートは本当にごめん!」

髪をかきむしり深々と頭を下げる。

「別にいいです。あの後デートしましたから」
「はい?」

光一郎の目が点になる。

「だっ誰と! っていうか、お前、他の奴とデートしてんじゃないぞ!」

出た、二重人格! 俺様光一郎にムッとする小鳥。